マインドフルネス・セラピー ぬくもり

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2019.07.23
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ストレスを可能性に変換するには ——今の気持ちをわかってもらうー

先日、6歳の子供の姿を見て、これだ!と思ったことがあります。
 その子は、結婚式の式場で、新郎新婦に指輪を届けるという大役を受けていました。丁度隣にその親子が座っていましたので、私はその子に『いま、どんな気持ちなの?』と聴いてみました。すると『ものすごく緊張している!』と真剣な表情でポツリ。『そう、緊張しているのね』と、その張り詰めている気持ちが私にもビンビンと伝わってきたので、一緒に緊張を感じていました。しばらくして、係りの人が迎えにきました。その子は、お母さんのほうに向き、うなずいてから、バージンロードのほうへ行き、指輪の入った箱を恭しくもって、一歩一歩ゆっくりと歩き始めました。

 その堂々たる姿に、ハッとしました。最初は少し硬い表情でしたが、中頃からは自信が出てきたようで、にこやかになって嬉しそうに歩を進めていきました。
 80人以上の人の視線を一身に浴びながら、見事に大役をこなしているその姿に、一同が感動し、惜しみなく大きな拍手を送りました。

 子供というのは、いつでも“今”の気持ちなのだ!余分な考えを持っていない・・・なるほど。緊張してドキドキしているときはドキドキしながら心臓をばくばくさせているし、いざ、歩き出したら、一心に指輪運びに専念している。ものすごく単純明快だ!子供にとってはこれは当たり前のことかもしれないが、大人になると、こんな風にはいかない。人からどう見られているだろうか、これで大丈夫だろうか?と、すぐそっちの思いに意識を取られて、自分の気持ちが“今”から離れてしまう。この心と身体がバラバラに分断された状態が自分を苦しめる元になっているのだなあ〜と、今の気持ちだけに集中して行動している子供の姿を見て、ストンと腑に落ちました。

 頭からいろんな思いが出てくるにはワケがあって、それは一人一人によって違います。この子は、自分の気持ちを感じたまま表現することに対して、親を始め周りの大人たちから受け入れてもらっているのでしょう。そして、お母さんとの関係に私は心を打たれました。自分を信じてもらっているという目には見えない温かいものを、その子は全身に感じているのだなと直感しました。これが「愛着の絆」です。この見えない絆が、勇気の源となって、いざ本番になったとき、自分を信じて堂々とやり遂げることができたのだと思います。人から信頼されてこそ、すんなりと自分で自分の力を信じていけるのです。自分の内なる力をすんなり信じられれば、緊張を可能性に変換していけるのだと、目の前で明快に見せてもらいました。この少女は苦しいほどの緊張を、見事に成し遂げる力に変換させていったのです。

 子供時代に、自分が感じている気持ちを表現すると否定され、潰され続けたりすると、自分の気持ちを無視して感じないようにして生きていく術を身につけていきますが、自分の親からでなくても、セラピーの中で、自分の気持ちをありのままに表現しても受け入れてもらう体験や、自分の存在を丸ごとOKされる体験等を繰り返し積み重ねていくことで、今感じている感情を取り戻すことができます。可能性に満ちた素の自分が蘇ってくるのです。

 感覚を取り戻すと、喜びだけでなく、緊張やネガティブな感情もリアルタイムで感じられるようになります。しかし、ネガティヴを感じ続けているには、それなりの辛さや苦しさを伴います。そこに留まっているにはかなりの底力が必要なのです。その力の源になるのが、「愛着の絆」です。緊張している辛さを分かってくれている人がたった一人でもいいから側に居るだけで、落ち着いて居られるのです。この目には見えない気持ちが、緊張や不安を勇気に変換してくれるのです。いくら頭で知識としてプロセスを理解していても、いざという時に役に立ちません。

 しかし、信頼してもらう体験や、たとえ失敗しても優しく受け入れてもらった体験があれば、何があっても何とかなる。と、体験的に知っているわけですから、どんなにドキドキしていても、その渦中に静かに居続けることができるのです。

 自分を丸ごと受け止めてもらう体験、これは、目には見えない気持ちを『今、そうなんだね』と、その時に感じているまんま、ただ受け取ってもらうことなのです。これは、「いのち」の謙虚さや気高さに直結しているのだと思います。体験を通して感じてみると、日常的に良かれと思ってやってしまう慰めや同情、説教などは、その「いのち」に対して配慮のない無神経な行為と言わざるを得ないのです。

 私たちは自分の「いのち」の謙虚さや気高さを、粗末に扱われることが非常に嫌いです。存在への軽視や無視に至ってはハラワタが煮え繰り返るほど嫌なのです。その時々に感じていることをありのままに受け止めてもらうということは、決して些細なことではなく、実は、存在に関わる極めて重大なことなのです。(セラピーの体験から)

セラピスト 福田京子

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